Torus Solutions 改

Ello 2017-09-08T18:53:12.771Z

日本語の「は」と「が」の違い。

「象は鼻が長い」という有名な例文があるけど、これはつまり、いろいろな動物と比較して、象は特別に長い鼻を持っている、というような事を意味している。では、この「は」や「が」を入れ替えてみたら、どんな風に聞こえるだろう。

「象は鼻は長い」としてみると、なんとなく、他のところは短いけど鼻だけは長い、というような印象になる。この場合、他の動物と象を比較するのではなく、象の中のそれぞれの部位を無意識のうちに比較している。

では次に「象が鼻が長い」とは言えるだろうか? ちょっとこれは、いまいち意図しているところを想像しにくい気がする。「象が鼻は長い」もちょっと何を言っているか分からない。

案外「が」が使える場所というのは限られているのかもしれない。例えば「雪が降る」という時には普通は「が」しか使わない。マーク・ピーターセン『続 日本人の英語』で著者は「雪は降る、あなたは来ない」という例文を引き合いにだして、「は」が使われることもあると言っている。では「雪が降る」と「雪は降る」だと印象はどう違うだろう? 「雪が降る」と言った場合は、普通に雪が降っているということしか分からないけど、「雪は降る」というと、他のものはやって来ないのに雪だけは降ってくる、というような印象ではないだろうか? ではそれに続く「あなたは来ない」を「あなたが来ない」に変えるとどうだろう? いずれにしても、他の人はくるのにあなただけが来ない、というような情景を思い浮かべるけど、「あなたが来ない」の方は、どちらかというと「あなた」の意志で来ないように聞こえるような気がするけど、「あなたは来ない」は単にその人が来ていないという事実だけを述べているように感じる。

これらの「は」や「が」はいずれも主格を表す助詞なので、日本語を学習する人からするとほとんど同じように聞こえるらしい。なので、日本語が相当上手な人でも「は」と「が」を正確に使い分けている人は珍しい。でもネイティブの日本語話者でもこれらの違いを明確に説明できるかといわれると、あまり自信がない。ただ、どうやら、単に動作の主体を表すというだけでなく、それを取り巻くまわりの要素との関係性を表しているような気がする。

しばらくそんなことを考えていて、これは日本人が英語を勉強する時に「a」と「the」の使いわけが正しくできないのに似ているのではないかと思った。「a」や「the」はそれぞれ名詞のまえにくっつく冠詞で、日本語では「ある(ひとつの)○○」「その○○」というような意味に相当する。a dog というとそれは 1 匹の犬の事で、他にもたくさんいる中のどれでも良い 1 匹というような意味を持つが、the dog というと、それはそれよりまえに何らかの形で言及された「その犬」で、他のどれでもない、という意味になる。

前出の『続 日本人の英語』の冒頭でもこれらの冠詞の解説があって、それを読むと確かに納得はするけど、いざ自分で話そうとするとやっぱり分からないことがまだたまにある。でも、英語話者が「a」や「the」を聞いたとき、彼らの頭の中にはまわりの環境といま言及している対象との関係性が思い浮かぶらしい。そう考えると、上で見た日本語の「は」と「が」の関係性にも似ている気がする。